特別審査員 カイシトモヤ一先生のコメント 抜粋

Creative Solution Awards -2016 2nd Presentation-にて特別審査員としてお招き致しました、カイシトモヤ先生のコメントの抜粋です。

奨励賞
3Fチーム「わたしの文具キメラ」
クライアント;サンスター文具株式会社
課題;文房具アイディアコンテストにより多くの人々が参加したくなるにはどうしたらよいのか
(より多くの人々がアイディアを創出することに挑戦する楽しさを実感してもらうためにサンスター文具は何ができるのか)

このチームはプレゼンテーションを聞きながら会場を周っている時に、なんかやばいオーラを感じて、恐ろしかったです(笑)。まったく新しいアイディアを出す時って、物事をひたすらそのまま掘り下げていく「垂直思考」っていう考え方と、それとは逆に、いろんなところを取っていく「水平思考」っていう考え方があるんですね。その「水平思考」の中で代表的な発想方法で、俳句でも使う「二物衝突」というのがあります。二物衝突というのは、まったく違う世界のこと・概念の二つをぶつけることによって新しい要因をつくることなんですけども、言葉にすると難しい「二物衝突」ですが、この「文具キメラ」はその「二物衝突」の概念をとてもわかりやすく、しかもカジュアルに面白く照らしてくれていて、こういうのってイラストレーションとかデザインの本来の機能だな、というところがすごく良いと思ったポイントです。逆に、もうちょっとこうしたらよかったかな、というところもあって。結局組み合わせのパターンゲームになってしまうので、アイディアが尽きてしまう。カードにないものを見いだす事ができない。
もうひとつは、与件の中に「応募させたくなるモチベーションをどう上げるのか」という点があったと思いますが、このコンテンツ自体はすごく楽しいけど、前段階から応募させる動機づけ、「楽しいから応募しよう」ということの動機づけが弱かったので、そこがもっと考えられていたらよかったと思います。
おめでとうございました。

優秀賞
3Cチーム 「TRAIN」
クライアント;株式会社ジェイアール東日本企画
課題;駅や電車内で、スマートフォン使用者がその画面だけではなく、交通広告にも注目するようになる相互活用の連携アイディアとは
3C_1
全てのクライアントの与件の中で、僕は一番難しい与件じゃないかなと思いました。当たった人は運が悪かったな、と僕だったらそう思います。(笑)そう思った理由がふたつあって、一つ目は、他のクライアントと違って総合広告代理店であるということですね。つまりターゲットを特定の状態に絞れないので、色んな変化に対応できる多様なアイディアが必要だったということ。二つ目は、結局矛盾している与件なんですよね。スマホの広告ばかりを見られると、JR東日本企画さんとしては困るからそれをなんとかしてほしい、という内容なので、かなりの無茶ぶりだなと思いました。(笑)その無茶ぶりにどう対抗するのかっていうところなんですが、正直いうと、いまはデジタルメディアなので、いま伸びてるデジタル媒体を直接そのまま活用するのは多少安直かなと思ったんですけれども、小島先生もおっしゃったように完成度・作り込みがすごくリアリティを持って飛び込んできたっていうところが一番の勝因だったと思います。おめでとうございます。

優秀賞
3Eチーム 「ラータカ・イソカーン」
クライアント;マルハニチロ株式会社
課題;収納棚からオープンスペースへ、缶詰・瓶詰をインテリアに変えるクリエィティブ・アイディアとは
3I_1
これの面白かったところは、今の世の中って商品に対して自由で、なんでも選べてなんでも買えるし、ネット通販でも注文したら今日中に届くようなサービスもあるじゃないですか。そんなことができるこの時代に、わざわざ店に行って400円もする高いもの買って、その日に食べられず、拝み続けるって、どんだけマゾプレイだよと思いましたけど(笑)そこがいいなあと思いました。これから消費に対して、「選ばせない」とか「なにか強要される」っていう売り方って僕はひとつ地位になると思っているんですよね。むちゃくちゃな表現ですけど、それが埋もれていたというか、すごく光があるなあと思いました。実現するにはかなりの壁があるなあとは思いますけど、アイディアの種を見つけられたので、そこで賞を決めました。おめでとうございました。

優秀賞
2Bチーム「スキノキ」
クライアント;株式会社丸善ジュンク堂書店
課題;ITの進歩が著しい昨今、本が欲しくなる新しい読書体験・空間のデザインとは
2B_1
まず一番のポイントは、誰かがレコメンドしてそれをトレースするという、SNSやインターネット、各種WEBサイトのレビューであたり前のように行われているコミュニケーションを、あえて「本屋」というアナログなところでやっているのがいいところだと思いました。僕としてはよくできたシステムと感じています。システムだけだったらこのまま使える、今すぐやってもおかしくないと思います。それから、木を幻影風景に見立てることが美しいと思いました。木陰の下、自然の中で読書を楽しむところも。
(チームの)皆さんは言っていなかったのですが、電子じゃなくて紙の良さがあるということで、紙はパルプ(木)でできているので、素材からしても木に還っていくというストーリーにも美しさを感じました。提案の中で「SNSで広げる」というものもあったのですが、SNSで広げてしまうとせっかく一生懸命アナログでやっている意味がなくなってしまうし、そこで完結してしまったら、本屋に赴こうと思わない。本屋に行って、本屋でしか見られない情報がある、インターネットじゃなくて足で稼がないと得られない情報があることが大事なことだと思います。また、デザインに関してはまだまだ完成度が低い印象を受けました。例えば葉っぱにしても、まだ練られていない洗練されていない感じもありましたし、インテリアにしてもまだ模索状態という感じがしました。ただ、企画となるアイディアはものすごく力のあるものです。マルエツムーブ、マルエツ男子、池メンもかなり気になったのですけど、今回はこの作品を選ばせて頂きました。
とても楽しい作品にたくさん出会うことができたと思います。ありがとうございました。

優秀賞
3Dチーム「ずかんずめ」
クライアント;マルハニチロ株式会社
課題;収納棚からオープンスペースへ、缶詰・瓶詰をインテリアに変えるクリエィティブ・アイディアとは
3D_2僕はデザインを高く評価したいと思いました。缶詰という食の文化から、書籍という別の文化に置き換えた時に、ラ・カンティーヌのもとの缶詰のデザインを「ずかんずめ」という新しい商品を作ったら、まったく新しい絵を描いたり自分でデザインしなおしたい、デザインを組みなおしたいと思うところを、そのままラ・カンティーヌのパターンを使って装丁に置き換えたり、鮭缶のボーダーをそのまま装丁に置き換えたりして、見方を変えることで、同じデザインでもまったく違った見え方にするというところが非常にデザイン的で面白いと思いました。そういうふうにデザイン・企画・文脈が色んなバランスが整った作品だと思います。おめでとうございます。

総評

まず、僕はこういう審査員を積極的にやらせていただきたいタイプなのですが、何故かというと自分の為です。僕が何より刺激を受けさせてもらって、すごく新鮮な空気を吸うことができます。学生のみなさんの自由な発想に触れることで、大人が逆に刺激を受ける。特にOCHABIさんがやっている、企業と学生の発想が一体になったもの。これってすごく貴重な経験だと思います。
僕も大学でゼミを持っているのでそこでよく話している内容と被るのですが、皆さんやってきて、何かいろいろわかったことがあると思います。楽しいものを作るとか、エンターテイメントなものを作る仕事をしていますけど、一番楽しいのって作ったものよりも、作っている途中なのですね。デザインのプロセスが、一番のエンターテイメントだと思います。だから将来、そういうことに関われる皆さんは幸せ者だし、そういう仕事を選びとった皆さんはセンスがいいと思います。こんなに楽しい仕事、ものづくりっていうこういう楽しい仕事は他には絶対ないと思っています。
それからチームワークっていうことも、評価の軸が総合的で、服であるとか、見せ方、プレゼンテーション、グラフィック、企画、いろんなことが横断的になっているところも素晴らしいなと思いました。これから皆さんどんどん社会に入っていった時に、たった一人だけで社会でものづくりっていうのは絶対にできない、これは断言していいです。ものを頼む人、作ったものを楽しむ人がいて、その間にもたくさんのいろんなスタッフが、いろんなこと・いろんな能力で支え合いながらものづくりをしていきます。なので、みなさんはそれの一歩目、疑似体験をここで行ったと言えます。ここで得られた事が、非常にたくさんあると思います。
「ものづくりは、作っている途中が一番楽しい。」
「プロセスこそがエンターテイメントだ。」
「ものづくりは、一人ではできない。」
ということをこれからも大事にして、過ごしていって欲しいと思います。
ありがとうございます。